影を撃つ

夜道を歩いていて足下の濃い黒い円に気が付くとそこが街灯の真下だった。歩くにつれて影は長くなり輪郭が人の姿になってくるが、そのうち薄くなり消える。前方の街灯が近くなり、振り返れば後ろに影が見えるはずだ。そして、再度足下に黒い円い影が見えて、それが長く人の姿になってから薄くなり消えて、暫くすると足下に黒い円が、と繰り返す。
何度目かの繰り返しで、影に十分な濃さがあり、寸法が人の形の実寸に近いときに、腰からピストルを抜き−−影にピストルを抜く動作がはっきり映った−−影の後頭部を狙って撃った。ピストルと後頭部との距離は、等しい辺が1.6メートルの二等辺三角形の他の一辺の長さ、1.6掛けるルート2の2メートル20センチよりも短い。腕をいっぱいに伸ばせば1メートル70か。だからといって必中というわけではないだろうが。