秋刀魚の歌

朝の散歩の時間は世間の朝食よりも少し早い時間かもしれないが、それでもときどき朝食の支度の匂いがする。朝から焼肉の匂いがすることもある。今朝はパンを焼く匂いだったが焦げ始めているようだったので「焦げてますよ」と、もし道路沿いの台所−−匂いの具合からしてそこが台所だと思うのだが−−の窓際に居れば聞こえないこともないような声で言って通り過ぎたが、このことで思い出したのは、母が何回か話したことで、台所で秋刀魚を焼いていたら−−七輪か石油コンロで焼いていたと思う−−窓の外で−−ここで家のことを説明しなければならないが、父が高校の教員で、住んでいた教員住宅は学校の敷地内に立っていたので、生徒が家の周りを行ったり来たりしていた−−通り掛かった生徒が「さんま、さんま、さんまは苦いかしょっぱいか」と言ったという話を何回か聞かされた。これは1955年、母が49才前後のことだと思う。
私の想像だが、母にとっては単純に「さんまは苦いかしょっぱいか」という表現が印象深かったのだと思う。それで、それから何年もの間、ときどき話したのではないかと思う。佐藤春夫の「秋刀魚の歌」の一節だというのは、その高校に通っていた姉が言って、それで私も「さんま、さんま、さんまは苦いかしょっぱいか」は小説か詩の一節らしいということを記憶したのだろう。今日調べて佐藤春夫の「秋刀魚の歌」の一節だとわかったわけだが。