ダメージ加工

「ダメージ加工」と言うらしい。考えてみればジーパンの穴あけとおなじなのだが、野球帽の庇の先端を横に割れているように加工するとは。しかもそれを被っていたのが私と同年輩の男性、例の「霧が強い」と言った人でした。立ち話しているとき野球帽の庇の先が割れているのに気がつき、ここまでになるには少なくとも十年は使って、とにかく相当な回数洗濯機で洗ったに違いないと感心し、思わず声になって「その帽子、使い込んでますね」と出た。「買ったときからこうなんです」という返事を聞いて、意味が分らなかった。「最近こういうのがあるんですよ」と重ねて言われて、そこでジーパンの穴を思いだした。なるほどそういうことかと思いついた。でも、その人と別れて散歩の続きを続けながら考えているうちに、帽子の庇の先を横に割る、それを故意にする、という発想はないだろうと思えてきた。かつがれた、一本取られた、と思った。
家に帰って調べたら、そういう帽子が売られていました。人間は面白いことを考えるものだと思うことにしたが、〈騙し〉ではあるなとも思う。襟の折り返しのところの表面の生地がボロボロになって中の生地が見えてしまった厚手のカッターシャツを捨てたのが悔やまれる。「天然のダメージ加工」だと思えば捨てることはなかった。実用的に支障がある(例えば靴下の穴は足裏が直接靴底に触れてあまり気持ち良くない)場合以外は「ダメージ加工」だと思うことにして使い続けようと思う。