続続、音楽劇『橋を渡る』

今回最前列に座って観て、演者はすぐそこにいて、舞台の床板のきしみがそこから聞こえてきますが、そこからは「ここは舞台です。ここでは芝居をしています」というメッセージが聞こえてきた。そうでなければいけないと思う。舞台の上に’異空間’ができるのが良い演劇だと思う。この前劇を観たのが三十年ほど前という私がちょっと言い過ぎだとは思いますが。ハンカチを渡したくなったのは、あれは私の気の迷いでした。差し出したハンカチは見えないバリヤーに遮られて演者には渡らなかったと思います。AKBの劇場だったら渡せたでしょう。蛇足だとは思いますが、これは『橋を渡る』を誉めているのです。
衣装も「いかにも舞台衣装らしい衣装」であるべきだと思う。例えば「ごく平凡な衣装」であれば、「ごく平凡な衣装の舞台衣装」であるべきだと思う。その点で、チーのコート−−絵画サロンを抜け出して外でカフェオレを飲むときに着るコート−−はあまり舞台衣装らしくなく、結果として舞台の上の’異空間度’が下がってしまうような気がした。後半でコートを脱いでの場面がでてきて、あのコートはチーの心の鎧の象徴でもあるらしい、と気がついたのだが、それならばもう少し丈の長い分厚い生地のコートでどうだったろうか。