川と線路

岡山発の汽車は倉敷から伯備線に入って山を登り始めた。左側に座っていたのは岡山から海が左だったからだと思う。青春18切符の旅は、汽車に乗っている時間が長いから、車窓からの景色は重要だ。片側が海のときには海側を選ぶ。手がかりがないときには、訊かれた方も困るとは思うが、見かけた駅員さんに、どちら側の窓の景色が良いか訊ねる。「○○までは同じだけれど、そこからは球磨川が窓のすぐ左に見えるから左かな」というように有益な情報を得られることもある。倉敷から登り始めた汽車の左の窓からは川が見えた。道路もすぐ目の下に見えた。登る方向に向かって左から「川、道路、線路」という並びがずっと続いた。かなり続いた。まず川があり、川沿いに道ができ、それに添って線路を敷いたのだろう。かなり上流なのだろうと思うが、あるところで川が大きく蛇行した。そのとき線路はどうしたか。鉄橋で川を渡った。その蛇行にまでは付き合えません、という線路の声が聞こえたような気がした。川と線路の位置関係の推移が、人と人との関係の時間による推移のようで面白かった。関係のスタートが川の上流なのか山裾なのか。こういう唐突な質問をしてみましょう。あなた方二人、川と線路は、川の水源辺りで結婚して山を下り始めましたか、それとも山裾で結婚して山を登り始めましたか?
この川は高梁川(たかはし川)という川です。