咄嗟に動けなかった

後から考えた。あのとき何故、隣に座っていたひ孫一の上に覆いかぶさって、飛んでくる水から守ってあげられなかったのか、と。わたしは体を反らせて水から逃げていただけだった。「飛んでくるのは水だから、かかっても濡れるだけ」と瞬間的に判断して、ひ孫一に掛かるのを防がなかったのであって、水ではない何か危険なものが飛んできたなら、自分の体でひ孫一を覆ったはずだ、と思いたいところだが、そういう場合も、その瞬間には体が動かなかっただろうと思う。「咄嗟に何かする」というのは難しい。「さあ今度は大きな水しぶきが飛びます。そちらの席の方に飛びますよ」と言いながら、トレーナーがわたしたちの座っている方に手を伸ばしたのだが、それまでの水しぶきが、たいしたことがなかったので、たいしたことはないだろう、と思っていたのだが、目の前二メートルくらいのところから、バケツ一杯の水を掛けられるような具合に水が飛んできて、わたしもひ孫一もかなり濡れた。イルカのショーのあとで昼ご飯を食べたときには、濡れて気持ち悪い、と騒いでいたのだが、その後で寄ったお土産コーナーでは、機嫌は直っていた。