『ある島の可能性』 ミシェル・ウエルベック

僕は当時−−15年以上経ったいま、そのことを思い返すと恥ずかしくて、吐きそうになるが−−とにかく僕は当時、性欲というものは、ある一定の年齢になると消える、少なくとも比較的穏やかな状態になる、と思っていた。いったいぜんたい、激辛思考がウリのこの僕のうちに、どうしてそんな馬鹿げた幻想ができあがったのか? 原則的には僕は人生というものをよく知っている。本だって結構読んでいる。しかも書物において、シンプルなテーマ、いわゆる、あらゆる証言に一致するテーマがあるとすれば、それはまさしくこのテーマだろう。性欲は消えるどころか、年齢とともに耐え難い、悲痛な、癒しがたいもにになる−−しかも男性においては、ホルモンの分泌、勃起、そしてそれに伴うあらゆる現象が消えても、若い女性の肉体への関心は減少しない。尚悪いことに、それはやがて、真に精神の産物(「コーザメンタル」とルビあり)、欲望を欲する欲望になる。これが現実だ。これが事実だ。これこそが、真面目な作家が飽きもせずに繰り返し、取り上げてきたことだ。

「あらゆる証言に一致する」に傍点あり。

これを語っている作中人物は、45才の少し前だったと思う。作者は1958年生まれ。これを書いたのが2005年だから47才。