読書

「母影」尾崎世界観

「推し、燃ゆ」よりは良い(好きだ)と思った。一度目は最後まで読み通せなかった。何故かというと、下記のような記述がつぎからつぎへと出てくるので「胃もたれ」のような感じになってしまった。 ほどけたクツヒモはお客さんの足から逃げてるみたいだった。…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん

主人公の「あかり」は、「推し」の関しては、勤勉、克己、合理的、学究的等の言葉で表現できる行動をとれる。「推し」について書いている文章も沈着冷静で明晰だ。「推し」に対する自分の関わり方を「あたしのスタンスは作品も人もまるごと解釈し続けること…

『わたしに無害な人』チェ・ウニョン 古川綾子・訳

この中の「過ぎゆく夜」の中の一節 >> コンムの書いた文章を読みながら考えた。私は、私を少しも理解しようとしない人間のことを理解しろと強要されていたのだと。 大人になってからも誰かを理解しようとするたびに、実はその努力は道徳心からではなく、自分…

「赤い砂を蹴る」石原燃

登場人物の身内の死が、いくつか(「発生」と考えて「何件」とするより、「存在」ということで「いくつ」とする方がふさわしいと感じる)出てきます。 「芥川賞のすべて のようなもの」というサイトがあり、ここで芥川賞の「選評の概要」を読んでいます。奥…

「アキちゃん」三木三奈

小学五年生のわたし、十八のわたし、と出てきますが、「良い」とか「悪い」ではなく、わたし(これを書いているわたし)の考える「年相応」とは、ずれているような気がしました。 アキちゃんの苦労は小学五年生でも分かるんじゃないかな。分かるというより、…

続「首里の馬」高山羽根子

資料館、主人公の仕事、迷い込んだ馬、といくつかのエピソードがあり、読み終わると、全体から何かあるものが、明瞭な形にならないまでも、浮かんでくるーーという感想を書けたら良いのですが、そうならなかった。 『如何様』の方は、読む人ごとに〈落ち方〉…

「首里の馬」高山羽根子

とはいっても読んでないのです。 『如何様』を読んで、良いなと思った。芥川賞の候補作にならなかった。単行本になった時期の関係で次の期の候補作になるかと思ったら、なっていなかった。「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」と同一期間で、そちらが候補…

『ショウコの微笑』チェ・ウニョン

>> (前略)自分が自分であるという理由だけで自らを蔑み嫌う人たちの立場で、社会や人間を見つめる作家になりたい。その過程で私もまた、恐れることなく、ありのままの自分になれたらいいと思う << 自己否定の強い主人公の話が多く、読んでいて息苦しくなる…

読んでよかった、『火花』又吉直樹

気に入った箇所を引用しようとページと行を控えていったらたくさんありすぎて、途中で止めた。 祭りのお囃子が常軌を逸するほど激しくて、僕達の声を正確に聞き取れるのは、おそらくマイクを中心に半径一メートルくらいだろうから、僕達は最低でも三秒に一度…

『三の隣は五号室』 長嶋有

一見無関係に存在する何かと何かに、ブラウン神父的意外性をもった因果関係があった、という話ではない。また、何かから何かが、風が吹けば桶屋が儲かる的因果関係により発生した、という話でもない。アパートの同じ部屋(五号室)に五十年の間に住んだ十三…

『見える暗闇―狂気についての回想』ウィリアム・スタイロン

もしわたしが鬱病になっても「何故なったのだろう?」と考えるのはよそう、と思った。この本を薦めるときに添えたい言葉は「敵=鬱病を知り己を知れば百戦危うからず」です。 追記 「百戦危うからず」は鬱病にならない、という意味ではなく、鬱病になっても…

『紅葉する老年』 旅人木喰から家出人トルストイまで 武藤洋二

著者は1939年生まれ。 自分にとって自分がやっかいになっても自分を他者へ預けない方がいい。手助けを断り続けたトルストイがここで参考になる。他者の手の中で脳は干物になる。脳は、自分勝手に遊ぶのが好きで、誰からも指示を受けず一頭一城の主として…

最近の読書

私の好みの順。『地平線』パトリック・モディアノ『通りすがりの男』フリオ・コルタサル『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ 『片手の郵便配達人』グードルン・パウゼヴァング『未成年』イアン・マキューアンまた、少し本が読める(根気が続く)ようになって…

続、『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ 土屋政雄=訳

途中途中で何回にも分けて感想を書いていこうと思いましたが、意外に早く読めて、読み終わってしまいました(「小妖精」のところなどは斜め読みだったが)。「巨人」の正体が分かってみると、「忘れられた」という形容がしっくりしないような気がした。「忘れ…

『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ 土屋政雄=訳

昨年9月にリクエストしたものが、順番が回ってきました。現在、蔵書数4で予約待ち17人ですから峠は越えたようです。 読み始めたところです。「読み始める」というより「’読むこと’に出発したところです」という表現の方がふさわしいかもしれません。58…

りんりん語録

『かあさんのいす』ベラ B.ウィリアムズ 佐野洋子訳 を、ひ孫一と一緒に読んだ。ぎっしりビンの口まで硬貨が詰まった絵に感激していた。最初の方のページの、大きなビンの底に硬貨が12枚の絵と見比べて感激していた。話は現在から始まりますが、次に時間…

『エゴン・シーレ』 坂崎乙郎

シーレほど自画像を描いた画家は珍しい。このこと自体、クールベ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンなどに共通する近代人の意識だが、彼の自画像がかれらのそれと異なるのは、自虐の傾向のはなはだしさであり、辛辣きわまりないアイロニーだろう。それらの自画…

続続、リーディング公演

私の行った日の演目と演者の皆さん。蜘蛛の糸 澤田寛弥トロッコ 江原千花 【公式HP】http://members2.jcom.home.ne.jp/kirei/ 澤田寛弥 桜井逹理月夜のでんしんばしら 江原千花 澤田寛弥 桜井逹理蜜柑 新本一真杜子春 新本一真 江原千花 澤田寛弥 桜井逹理私…

続、リーディング公演

読んでいたら分らなかったこともありました。「トロッコ」の一節です。 が、そのほかはどこを見ても、土工たちの姿は見えなかった。 「どこ」と「土工」に語呂合わせを聞いた。芥川も意識していなかったと思うが、案外意識していたかもしれない。「杜子春」…

リーディング公演

リーディング公演というものに行ってきました。下記の公演です。ホームページの記事は過去の公演の記事ですが、今回は再演で2015年6月26日から28日にありました。今回の演目は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」「トロッコ」「蜜柑」「杜子春」、宮沢賢治の…

『房総の近代文学Ⅰ』

収録作品と場所。場所は解説に拠ります。青木健作 「五位鷺の死骸」解説 坂本哲郎 成田 芥川龍之介「海のほとり」 解説 鳥海宗一郎 上総一宮 有吉佐和子「海鳴り」 解説 坂本哲郎 かつての稲毛海岸 石川淳 「燃える棘」 解説 竹内清巳 船橋 伊藤左千夫「紅黄…

『善き女の愛』 アリス・マンロー 小竹由美子訳

裏表紙より。 「人生なるもの」の曖昧さ、 怖さ、そして、ほのかな希望。 訳者あとがきより。 マンローの長女シーラは前述の伝記に中で、「わたしのテーマは昔から今にいたるまでずっと『人生なるもの』なのだと母は語った」と記している。 私には分らないの…

『ルンタ』 山下澄人

『abさんご』の場合は、「こういう形の型の破り方」があるのだと感じたと思う。この作品も同様に「型破り」だと感じるが、「こういう形」に当たるものが浮かばない。とにかく「型破り」を目の前に突き出された。この本には栞がない。紙を挟んでおくのだが…

続、『冬の旅』 辻原登

自転車の「立ち乗り」というか「立ち漕ぎ」というか、そういう場面が何か所かでてきた。漕ぐのは同じ登場人物ではない。坂道の登りでもない。何かのメッセージの象徴として使われているのでもなさそうだ。作者は、自転車の「立ち漕ぎ」が好きで、日常自転車…

『STONER ストーナー』 ジョン・ウィリアムズ / 『冬の旅』 辻原登

寝床で一ページも読まないうちに眠ってしまうようになって、いよいよ読めなくなったかと思っていたが、これは読めた。ストーリーのあるものは読んでしまう。 後藤明生のものは、あっちに飛び、こっちに飛びするが、奇妙なストーリーはある。保坂 和志には感…

続、『中国の歴史認識はどう作られたのか』 ワン・ジョン 東洋経済新報社

この本を読んで中国人の日本人に対する感情の今後はそう悲観したものでもない、と感じた。中国共産党が党に対する求心力を維持するために反日や反米感情を強めるような操作をしても、自ずと限界があるように思う。 事実として、中国からの日本への旅行者は増…

『中国の歴史認識はどう作られたのか』 ワン・ジョン 東洋経済新報社

まずは目次 序章 「戦車男」から愛国主義者へ 第1章 選び取られた栄光、選び取られたトラウマ 第2章 歴史的記憶、アイデンティティ、政治 第3章 「中華帝国」から国民国家へ−−国恥と国家建設 第4章 勝者から敗者へ−−愛国主義教育キャンペーン 第5章 「…

自慢の解釈

「二十歳とはロングヘアーをなびかせて畏(おそ)れを知らぬ春のヴィーナス」二週間前の講座でこの歌が板書された。椅子に座って板書を見ながら頭の中でいろいろ考えているうちに、ヴィーナスが髪の毛で前を隠していること思い当たった(後で調べてみら、い…

『ひとり』 小林栗奈 集英社

六十代男性が引き込まれて一気に読んでしまった。気は若いつもりだが、この本が入っている「スーパーファンタジー文庫」という文庫の狙っている年代とは少し離れていると思う。『声』もそうだったが「牽強付会」なところはない。仕掛けが大きい。「秘められ…

『声』 小林栗奈 集英社

推理と怪奇が無理なく融合していると思った。誰が犯人かのヒントが提示された後、判明までにはまだいろいろあるかと思ったが、あっさり犯人が判明した。手にしている本には残りのページがまだ半分弱ある。これは二編入っているのかと思ったりしたがそうでは…