『グアバの香り ガルシア=マルケスとの対話』 G・ガルシア=マルケス、P・A・メンドーサ(聞き手)

17歳で『変身』を読んだ時に、自分はいずれ作家になるだろうと思ったんだ。

−−どうしてそこまで惹かれたんだろう? どんな話でも好きにでっち上げられると思ったからかい

それまでは学校の教科書に出てくるわかりきったお決まりの物語しか知らなかった。でも、文学にはそれとはまったく別の可能性があると気づいたんだ。まるで貞操帯を外されたような感じだった。しかし、時間が経つにつれて、話をでっちあげたり、自分勝手な空想に浸ったりしてはいけない、なぜなら、そうすると嘘をつくことになるが、嘘というのは実生活以上に文学においてついてはいけないものなんだということに思い当たったんだ。一見好き放題にしていいように見えても、ちゃんと法則がある。合理主義というのはアダムがつけていたイチジクの葉みたいのもので、取り外してもいいけれど、その時は混沌とした不合理な世界に入り込まないよう気をつけなければならない。
−−とりとめのない空想ってことだね?
そう、それだよ。
−−どうして空想が嫌いなんだい?
作家は苦心して現実的な世界を作り上げるが、想像力というのはそのための道具でしかないと思う。創造の源泉になっているのは常に現実なんだ。単なる空想、あるいは現実に基づいていないウォルト・ディズニー風の純粋で単純な作り話が許せなくてね。以前、子供向けの短編集のために「失われた時の海」という短編を書いて、草稿を送っただろう? 君はいつものように正直に、「あまり好きじゃない、それがぼく自身の限界だろうが、幻想が何も語りかけてこないんだ」とぼくに言ったね。あの言葉にはショックを受けた。だって、子供たちもとりとめのない空想は嫌いだからね。彼らが好きなのは言うまでもなく想像力の世界だよ。この両者は、本物の人間と腹話術師の遣う人形との違いと同じで、まったく別ものなんだ。