JR山田線

森の小径に線路が敷かれ、そこを列車が走っているような雰囲気がした。JR山田線は今回乗った列車の中でも記憶に残った。決して遊園地の電車ではなく普通の電車だが、二両編成だからこじんまりしている。轟音を響かせて大地を裂くように走るのではない。しかし「森の小径」という表現は間違いだった。おとぎ話の世界ではない。車両の外に出てひとりで線路の上に立ったら、周囲の樹木や、樹木をとおして見える空からの圧力でしゃがみこんでしまうだろう。
単線で両側に木が迫っているという線路は内房の、全体的には海沿いだが山一つ分内陸に入ったところを走るところにもあるが、両側の樹木との近さは山田線が一番ではないかと思う。トンネルも多い。短いトンネルが続く。樹木のトンネル、本物のトンネル、樹木のトンネル、本物のトンネル、とほぼ等間隔で続く。トンネルに入る前では汽笛を鳴らす。運転規則なのだろう。しかし、規則で鳴らしているという感じはしない。「トンネル内を歩いている人よー、避けてくれよー」という呼びかけをはっきり感じる。山を越えれば半日かかるところをトンネルを抜ければ15分で向こう側に行ける、そんな感じがする。トンネルだけでなく、線路を道路として使えばどんなに便利だろうと思う。道路替わりに使うかどうかは別として山で道に迷っていて線路に出たら、安堵のため息を十回ほどつくだろう。そして線路を歩き始めるだろう。「神様、仏様、線路様」。いや「軌道様」の方が良いだろうか。
ここまで書いて気がついたのは、私の印象に強く残ったのはJR山田線の列車ではなく線路だったかもしれない。
盛岡発11時8分。この写真は11時35分。山中のピークはもう少し後だったか。

11時42分。