パンダのいる部屋

そのアパートの二階は、わたしの目の高さより少し下になる。わたしの下っている坂道の先が右にカーブしているが、アパートはそこに建っているので、坂道を下るわたしはそのアパートの二階を少し見おろすことになる。その日、二階のひとつの部屋の透明なガラス戸をとおして、薄暗い室内にパンダがこちらを見ていた。一瞬の半分くらいの時間ぎょっとしたがすぐにダンボール箱に印刷してあるパンダだと分った。そのガラス戸のところは長いこと雨戸が閉まっていたことと考え合わせて、誰かが引っ越して来た、と分った。その日から十日ほど経過しただろうか。ダンボール箱は片付いたようだがカーテンは付いていない。そのガラス戸をとおして、向こう側−−恐らく台所か−−の窓が明るく見える。単身か。片付ける時間がないのだろう。