スーツケースに目が釘付け

5月に予約していた市の健診の日、9月3日がついにきてしまって、朝7時50分に病院に行った。受付けを終わって待合室のソファに座ったところでテレビでNHKの朝のドラマが始まった。母と娘のようなふたりが野原を歩いて来るシーンから始まった。テレビは見ていないのでストーリーは分らない。女の子が着ている服の赤が鮮やかだ。これが4Kだろうか。母親は手にスーツケースを提げている。車輪が付いていない手で提げるタイプで、昔はみんなそんな形だった。時代考証の結果選ばれたスーツケースなのだろう。わたしの目が釘付けになったのは、母親の提げているスーツケースだった。腕の延長上にスーツケースがある、という風に見えた。もしスーツケースにある程度の重さがあるなら、腕、肩、体はその重さに逆らわなければいけないはずだ。その「逆らう」という気配が感じられなかった。あれは空だな、と確信した。

ひょっとして、何かを持ち帰るために空のスーツケースを持ってきた、という筋だったのだろうか。