『刑罰』フェルディナント・フォン・シーラッハの中の「リュディア」という作品中の一節

法廷での精神科医の証言です。

>>「愛し合うというのは非常に複雑な過程を経るものです。はじめはパートナー本人を愛するわけではありません。そのパートナーから作りあげたイメージを愛するのです。ふたりの関係に危機が訪れるのは、現実が見えてしまったときです。つまり相手がじつはまったくちがう人間だと気づいたときなのです。アメリカ合衆国では、ごく普通の自立した女性と受刑者のあいだで結婚が成立するケースが多く見られます。その女性たちはたいてい新聞の結婚募集広告で知り合います。ですから相手と一生いっしょに暮らせないかもしれないことを承知しています。それでもその関係は強固です。被告人の場合とおなじ現象です。女性から受刑者へ向けた愛情は現実にさらされないのです。被告人と人形の関係も現実のものとはなりません。おそらくそれゆえに、被告人の愛情は、強固なものとなるのです。幸福な関係が長期につづくわけです」<<