油揚げ

油揚げの特性は、液体を吸い込むことにある、と見抜いた。言い換えれば、噛むと滲み込んでいた液体が口の中に出てくるのが特性だ。どんなに美味しい液体(「汁」でいいかな)でも、そのまま飲むのでは直接的過ぎるというものを味わうのに真価を発揮する。このとき、表面ではその味がしないで滲みみ出てきた汁で初めてその味を感じると喜びが大きい(不味い汁だったら逆の喜びが大きいが)。
油揚げの特性については、私自身は最近になってそういうものかなと分かったが、知っている人は居た。先日お邪魔したお宅ではコーヒーに、短冊に切った油揚げが添えられていた。「どうぞ、浸してから口の中で絞ってみて下さい」と言う。半信半疑でそのようにしてみたら、なかなか美味しかった、と記憶している。
驚くべき事実がある。『失われた時を求めて』の中ではマドレーヌになっていて、「マドレーヌのエピソード」として有名だが、実はプルースト自身が日頃紅茶に浸して味わっていたのは「油揚げ」だったそうだ。そのまま作品の中に登場させたら、その後の「油揚げ」の運命はどう変わっただろうかと思うと、感慨無量である。