小説

芥川賞・直木賞の候補作についての対談を読んで

杉江松恋氏とマライ・メントライン氏の対談です。 https://qjweb.jp/feature/29973/ https://qjweb.jp/feature/29983/ マライ・メントライン氏の感想が、なかなか的確だと感じた。

『刑罰』フェルディナント・フォン・シーラッハの中の「リュディア」という作品中の一節

法廷での精神科医の証言です。 >>「愛し合うというのは非常に複雑な過程を経るものです。はじめはパートナー本人を愛するわけではありません。そのパートナーから作りあげたイメージを愛するのです。ふたりの関係に危機が訪れるのは、現実が見えてしまったと…

読んでよかった、『火花』又吉直樹

気に入った箇所を引用しようとページと行を控えていったらたくさんありすぎて、途中で止めた。 祭りのお囃子が常軌を逸するほど激しくて、僕達の声を正確に聞き取れるのは、おそらくマイクを中心に半径一メートルくらいだろうから、僕達は最低でも三秒に一度…

送られてきた句と返事

こんな手紙がきた。 「ゆきだるま」溶けて消えてしまいたいこんな句ができました。構造としては’桐一葉落ちて天下の秋を知る’の構造を借りました。 返事をだした。 君の作品の良さが分らない方がわるい。気を落とすな。 彼が「構造」と言っているのは、おそ…

1月1日の記事に書いた太陽の写真

下に載せた写真の光景を種に1月1日に下記のように書いた。しかし、読んだ人の頭に浮かんだ光景が写真の光景にならなくてもよいと思う。 朝の散歩の七時過ぎの空は、雲の切れ目からの太陽の光が雲を背景に光の帯として見えましたが、太陽の輪郭は雲に溶けて…

「ビデオの編集」ということ

私が入っている文章教室が一般の方の参加を募って公開文章教室を開いた。地元のケーブルテレビ局が取材に来て撮影していった。その放送を見た。「地域の出来事」のような番組の中で放送された。時間は5分ほどだった。 まず最初に教室終了後の参加者へのイン…

小檜山博さん

まだプロにはなっていない、小説を書く人たちの集まりに行った。同じ先生のいくつかの教室の合同の会だった。元編集者の先生の縁で北海道から小檜山博さんが来た。紹介があったときは驚いた。司会者の視線の先、会場の後方を振り返ると、ひとり異彩を放つ人…

『詩という仕事について』 J.L.ボルヘス

「2隠喩」より。 さて、われわれはようやく、この講義の二つの主要な、しかも明白な結論に達しました。その第一は、言うまでもなく、数百の、いや数千の隠喩が見いだされるけれども、その一切は少数の単純なパターンに帰着させることができるだろう、という…

続き、『文芸漫談 笑う文学入門』 いとうせいこう×奥泉光+渡部直己

引用に間違いがありました。下から3行目に「その仕方なり個性がある」とありましたが、「その仕方に個性がある」が正しいです。訂正しました。前の記事の引用に続く部分です。 奥泉 そうですね。どんどん影響を受けるから、どんどん直したくなるんですよね…

『文芸漫談 笑う文学入門』 いとうせいこう×奥泉光+渡部直己

いとうせいこうと奥泉光の対談。脚注は渡部直己。 いとう 僕は昼ごろ起きるんですけど、ごはんでも食べようかなと思ってテレビをつけると、不愉快なニュースを流してたりする。その感じを、書きだすときにはふっきらないと、不機嫌さが反映されちゃいますね…

さらに、小説の中の会話の文

もう一つ考えたこと。小説は、書いてある文字を一つづつ順番に読んでいくことしかできません。例えば「山田は真っ赤な顔をして言った」という文字と「そんなことが、世の中にあっていいわけがないだろ」という文字を同時に読んでそれを合成して頭の中に入れ…

小説の中の会話の文

小説の中の会話の文について考えてみました。小説の中の会話文は<文字で書かれていて読まれる>ものです。本のページから声が出せないからしかたなく文字で、ということではない。<文字で書かれていて読まれる>ことが本来的な性質です。だから、話し言葉…

『小説−−いかに読み、いかに書くか』後藤明生

古本で購入。買ってしまうと読まないいつもと異なり、買ってすぐに読了。小説家にはと、の、二つのタイプがあるのではないだろうか。この本を読んで、そんな感想を持った。 小説とは何かに関する本ではよく取り上げられている横光利一の『機械』を読んでみよ…

『日本近代文学との戦い』後藤明生

表表紙の題字が「近代」と「文学」の間で改行している。「日本近代」で一行(下には少し小さめの活字で「後藤明生」と入り)、隣の行に「文学との戦い」となっている。「日本近代文学」と続けて読むべきなのか「日本近代」で切って「於ける」を補足して読む…

『円と楕円の世界』後藤明生

表題の書中の「迷路あるいは現実」発表誌「早稲田文学」昭和46年10月より引用。 何をどういうふうに書いてもよろしいけれども、書かれたものが結果として、「現実とはこういうものだ」というふうな形になっていればいんじゃないかと思うわけでして、それ…

内輪の話題

「内輪」というと、いかにも「何人かには通じる」ように聞こえますが、それすら見栄です。わたしの話題で、わたしが思わず笑った、少し寂しく笑った話です。 「何がないのを見てるんですか」というのが最近わたしが応募した小説の出だしですが、その賞の一次…

続続、 小説講座 『売れる作家の全技術』 デビューだけで満足してはいけない 大沢在昌

《小説の「トゲ」とは何か》より でも、お金になる小説、プロフェッショナルが書く小説には、ただ「よくできている」というだけではない何かが必ず含まれています。それが「小説のトゲ」です。「トゲ」や「毒」(引用部分の前で「小説のトゲ」を「毒」という…

続、 小説講座 『売れる作家の全技術』 デビューだけで満足してはいけない 大沢在昌

私が意を強く持ったところを書き抜きます。 受講者の<「一般受け」をどのくらい狙うべきか?>という質問に対する、大沢在昌の答えです。 「一般受けするもの」を、これは一般受けするからやってみようと狙って書いて、実際に一般受け出来るぐらいのものが…

小説講座 『売れる作家の全技術』 デビューだけで満足してはいけない 大沢在昌

こちらデビューもしていないし、目指す小説のジャンルが違うような気もするし、次の予約者もいるし、読まずに返そうと思いましたが、せっかく借りたのだから一部だけでも、と思って読み始めたら、全部読んでしまいました。 読んで、作家になるには、才能・努…

1月31日消印有効

今年も何とか応募できました。最寄りの郵便局で間に合いました。 今週始めから、直して直して、昨日の夕方、もうこのくらいかなと、最終稿のつもりで読み始めたら、なんだか面白くない。いかにも「小説です」といった感じになってしまっていたので元に戻した…

郵便局にて

どうですか?オーバーしているような気もしますが、と《沖縄の海》の80円切手を貼った封書を窓口に差し出すと、受け取って秤に載せ、少し超えてますねあと10円ですと、郵便局の郵子さんが言った。しまった、重さを軽くする物質を入れて来るのを忘れたな…

『話の終わり』リディア・デイヴィス

小説を書いていく過程を書いた小説。作者は「いなくなった男の話だ」と言っているが、一般的に言えば恋の話。終わる過程が長い恋の話。 だがそんなことを考えていると、カウンターの男が私の座っている高い本棚の陰までやってきて、私の方に身をかがめ、優し…

なるほど

新しく芥川賞の選考委員になった奥泉光氏の選評中の言葉 今回から選考に加わることになって、自分が立てた方針は、方法意識に貫かれた、小説らしい企みのある作品を推していきたいというもので、ただし、方法しかないものはやはり詰まらぬわけで、だから結局…

油揚げ

油揚げの特性は、液体を吸い込むことにある、と見抜いた。言い換えれば、噛むと滲み込んでいた液体が口の中に出てくるのが特性だ。どんなに美味しい液体(「汁」でいいかな)でも、そのまま飲むのでは直接的過ぎるというものを味わうのに真価を発揮する。こ…

倉橋由美子の言う「小説の基本ルール」

『あたりまえのこと』の中に書いてあった。本は返してしまったので、引用ではなく、私の理解した所を書く。「小説を書く上での基本ルール」として二つのルール違反をあげていた。ル−ル違反その1作者が自分のことを「私は」という書き方で小説に書くこと。 …

なたでここジャパン

近くの公園で《なたでここジャパン》の某選手が休日を楽しんでいたので、後姿ならということで了解を得て、シュートの姿を撮らせてもらった。さすがのフォームだ。向こう側でキーパーを務めているのは本人の弟さんとのこと。 上の写真を送ったら、バレンタイ…

解説 ここにない戦争 奥泉光

コレクション戦争と文学5「イマジネーションの戦争」の解説の冒頭部分です。 暴力や経済など人間を外から動かす力はいろいろあるが、人間には内に備わった力もあって、そのひとつが想像力である。想像力はここにないものを言葉でもって現出させる力である。…

「1月31日消印有効」と「月」

「1月31日消印有効」の文学賞に応募しました。郵便の受付時間は最寄りの郵便局が17時まで、佐倉郵便局が20時までで、今回船橋郵便局が24時まで(0時から24時なのでそのまま開きっぱなしのようですが)ということを知って、最後は船橋まで行こうと…

『私のいない高校』青木淳悟

巻末にある著者の言葉 この作品は、『アンネの日記 海外留学生受け入れ日誌』(大原敏行著 東京新聞出版局/1999年)の内容に多くを負っています。同書を一部参照しつつ、全体をフィクションとして改変・創作したものです−−著者

むしゃぶりつ(貪付)いた話

むしゃぶりつく(「むさぶりつく(貪付)」の変化)激しい勢いでとりつく。しゃにむにかじりつく。「武者振付」と書くのは当て字。*浄・長町女腹切‐中「べりべりしゃべるほうげたけはないてしまはんと、むしゃぶり付」 「むしゃぶりつく」は必死さを感じさ…