解説 ここにない戦争 奥泉光

コレクション戦争と文学5「イマジネーションの戦争」の解説の冒頭部分です。

 暴力や経済など人間を外から動かす力はいろいろあるが、人間には内に備わった力もあって、そのひとつが想像力である。想像力はここにないものを言葉でもって現出させる力である。過去の回想や想起も、ここにないものを現出させるという意味では、同じ力の働きの一部ではあるけれど、想像力が最もその力を発揮するのは何かを「変形」するときである。ここにないものを現出せしめるといっても、神ならざる人間は、無から創造することはできない。すでにあるものを変形するしかない。人間の創造とは想像力を媒介とした世界の変形といってよいだろう。
(中略)
 ここにないものを言葉で現出させ現実を変形する想像力は、別して虚構にかかわる。ここにないものが〈ものがたられる〉とき、それが虚構になる。虚構はときに人間を動かす力を持ち、つまり現実的な力となる。逆に、私たちを取り囲む現実とは、人間を動かすだけの力を持った虚構だともいいうる。そして文学は、虚構を作り出し、虚構の磁場へと人間を誘い込み、想像力の解放を促し、ここにない世界に生きることを唆す。それは、同時に、ここにある世界=現実への強い批評を孕むことになるだろう。
(後略)

「逆に、私たちを取り囲む現実とは、人間を動かすだけの力を持った虚構だともいいうる。」

なるほど、そう見ることができるのだ、と思った。「目から鱗」でした。
理論武装は出来た。実践、それが問題だ。