『濡れた靴を乾かす』

靴のかかとの部分に丸くすり減って薄くなったところができてきて、雨上りの道や小降りの雨というように、路面が少し濡れているだけのときにも、歩いているうちに靴の中へ水が滲みこんでくる。帰ってくるころには、靴下がびっしょりに濡れている。歩いているうちに濡れてくる分には、あきらめて歩くしかないが、新しく歩き始めるとき濡れた靴で歩き始めるのは嫌だ。だから濡れた靴は明日までに乾かしたい。<濡れた靴をかわかす>場面には、映画や小説で会うことがあるが、危機や苦難をとりあえずにしろ脱した安堵感があふれる場面で、その象徴として濡れた靴を乾かす場面が使われるような気がする。行軍の後の宿営であれば「何とか今日も生き延びて靴が乾かせる」、山で遭難しかかった後の山小屋ならば「助かった。まずは靴を乾かそう」。
そういう意味で<肩の荷を下ろす>と同じように喩えとして日常使われて良いように思うが、使う場面を考えてみると難しい。「靴」が「荷」よりも具体的過ぎるのも使われにくい理由だと思うが、もう一つ、スキー場のロッジで靴を乾かすように、一日遊んで靴を乾かしておいて、さらにお楽しみはこれからだ、というような状況も思い浮かぶように、象徴する対象の一義性に欠けるところもある。