勘違い

三十分後には勘違いと気がついて、勘違い、と言う判断には迷いがないからすっきりしている。間違いなく勘違いだった。次の日になったら、勘違いする方がおかしかったかもしれない、と思うようにもなっている。いつも買い物をするスーパーの肉の売り場に並んでいる、肉のトレイが黒だった。全部と言うわけではなく、一部、具体的には「アメリカ産豚肉・とんかつ、ソテー用」だったが。二十年弱になると思うが、このスーパーで食材を買っているが、肉のトレイが黒だったという記憶がない。ちょうど割引の値札を貼りに回っている店の人が横にいたので、思わず「トレイが黒ですね。珍しい」と言ったらその人がすかさず「お正月の残りなんですよ」と言った(このことがあったのは九日だった)。驚いた。実際そうだったとしても、そうもあけすけに「売れ残り」と言うとは、と驚いた。「そうなんですか」というような返事をして、そそくさとそこを離れた。知ってはならない秘密を聞いてしまった、というような気持ちだった。そのあと店内をまわりながら、このことを考えているうちに閃いた。そうか、あれはトレイのことだったかと。確かに縁起物を並べるには白より黒の方が重みがある。その黒いトレイが余ったので肉に使った、ということだったのだろう。正月の売れ残りの肉、と考えたのは、とんだ勘違いだったわけだ。