さらに、小説の中の会話の文

もう一つ考えたこと。

小説は、書いてある文字を一つづつ順番に読んでいくことしかできません。例えば「山田は真っ赤な顔をして言った」という文字と「そんなことが、世の中にあっていいわけがないだろ」という文字を同時に読んでそれを合成して頭の中に入れる、といった芸当は、ひょっとするとできる人がいるかもしれませんが、少なくともそう読むために文字を並べた本はないと思います(前から読む、後ろから読む、一行おきに読むような仕掛けの本は、あるかもしれませんが、これらも<同時に読む>ではありません)。
従って、映画の場合は、喋っている人の顔が映っていれば、発言内容を耳で聞きながら、しゃべり手の表情を目で見ることができますが、小説では「発言内容」と「発言者の状態」の記述は別に読むことになります。

山田は真っ赤な顔をして言った。
「そんなことが、世の中にあっていいわけがないだろ」
鈴木が俯いて答えた。
「でも、あったんだよ」

「そんなことが、世の中にあっていいわけがないだろ」
山田は真っ赤な顔をして言った。
「でも、あったんだよ」
鈴木が俯いて答えた。

どちらの場合も、この形が続くと「歯の高さの違う下駄で歩いているような」感じがしてくるのです。感覚的な表現ですみません。

会話文は会話文だけでつなげていく方が良いように思います。発言者が誰かがわかるような記述をしておいてから

「そんなことが、世の中にあっていいわけがないだろ」
「でも、あったんだよ」

とする。「真っ赤な顔」も「俯いて」もいらないと思います。もし必要ならば、会話が終わったところで

ふたりは、黙り込んだ。山田は真っ赤な顔をして、鈴木は俯いていた。

というように、一区切りの会話を終えたところで、発言者の状態に移る方がよいのではと思います。途中で山田の顔色が青に変わったら?変わらないようにしてください。
************記事はここまで****************