『文芸漫談 笑う文学入門』 いとうせいこう×奥泉光+渡部直己

いとうせいこう奥泉光の対談。脚注は渡部直己

いとう 僕は昼ごろ起きるんですけど、ごはんでも食べようかなと思ってテレビをつけると、不愉快なニュースを流してたりする。その感じを、書きだすときにはふっきらないと、不機嫌さが反映されちゃいますね。モードが変わってしまうこと……これはどうすればいいんですか?
奥泉  ぼくは、それはぜんぜん構わないという立場です。たとえばひとの小説を読んだりしますよね。「いいな、これ」と思って自分の小説に戻ると、どうしても影響を受けてしまう。
いとう ぜったい受けますよ。
奥泉  小説を書き始めたころは、「それはマズいだろう」と思ったんです。影響を受けないほうがいいんじゃないかと。
いとう 「偶然に支配されてどうするんだ」と思うじゃないですか。
奥泉  でもね、「ひとつの小説を書きついでいるとき、なにを読んでいるか」はある意味で偶然ですよね。たまたま読んだものに影響を受けて、それを自分の作品に投影させていく−−あるときから、それはそれで構わないと開きなおったんです。
いとう ばんばん気分どおりにいく。
奥泉  「もうなんでも来い」。気分が変わったら変わったでOK、それでダメなものしか出てこないんだったら、どっちみちダメだということです。