読書

『ナボコフの文学講義』 ウラジミール・ナボコフ 野島秀勝 訳 河出文庫

読者が良き読者になるためには、どうあるべきか、答えを四つ選びなさい−−1 読者は読書クラブに属するべきである。 2 読者はその性別にしたがって、男主人公ないし女主人公と一体にならなければならない。 3 読者は社会・経済的観点に注意を集中すべきであ…

『現代小説作法』 大岡昇平

デモクラシーも一つの神話であり、国家という観念自体、神話であるという意見も行われている今日です。しかしそんなら我々が清き一票に熱中する理由はまったくないわけですから、これは現実を遊離した考え方でしょう。ゲルマン神話、古代ローマ帝国の幻影、…

『仕事休んでうつ地獄に行ってきた』 丸岡いずみ

第1章の目次です。確かにこれはきつすぎると思った。 第1章私、走りすぎちゃいました! 地方の局アナから、キー局の看板ニュースキャスターになるまで 家電営業職のつもりが地方局でアナウンサーに 北海道で”アイドルアナ”になる ひきこもりの女の子を2年…

『夜は終わらない』 星野智幸

A、B、C、Dそれぞれが「話」として、下記のような構成になっているのだろう。Aの開始 Bの開始 Cの開始 Dの開始 Dの終り C終り B終り Aの終り実際には、一番外側のAの結末は小説内にはない。それは「実際に起こった出来事のどれか」が、そこに当…

『杳子・妻隠』古井由吉

「杳子」の方を読み始めた−−山で出会った場面まで−−ところですが、ちょっと面白そうなことがあって書き出してみます。 文芸春秋の社内選考でひとつに絞れなかったので、古井由吉については「杳子」と「妻隠」が芥川賞の候補作になりました。各選考委員がこの…

『グアバの香り ガルシア=マルケスとの対話』 G・ガルシア=マルケス、P・A・メンドーサ(聞き手)

17歳で『変身』を読んだ時に、自分はいずれ作家になるだろうと思ったんだ。 −−どうしてそこまで惹かれたんだろう? どんな話でも好きにでっち上げられると思ったからかい ? それまでは学校の教科書に出てくるわかりきったお決まりの物語しか知らなかった…

続、『海辺のフィアンセたち』 ミシェル・トゥルニエ

大きな分類ごとの表紙に短い文がある。大きな分類「身体」のところにある文。 老いる。越冬用の棚板に りんごが二つ、 一方のりんごは膨張し、腐る。 他方は乾燥し、皺だらけになる。 選びなさい、できるものなら、 固く、軽やかな 二番目の老いを。

『海辺のフィアンセたち』 ミシェル・トゥルニエ

訳者のあとがきによれば 原題からすれば、タイトルは『小散文集』とでもいったところであろうが、(後略) 以下は、大きな区分の「身体」の中の「セックス」の全文 セックスの何がつらいかというと、セックスの満足はセックスを堪能させるどころか、逆にそれ…

『ある島の可能性』 ミシェル・ウエルベック

僕は当時−−15年以上経ったいま、そのことを思い返すと恥ずかしくて、吐きそうになるが−−とにかく僕は当時、性欲というものは、ある一定の年齢になると消える、少なくとも比較的穏やかな状態になる、と思っていた。いったいぜんたい、激辛思考がウリのこの…

名付けて「蜻蛉ジュース」

『双眼鏡からの眺め』イーディス・パールマン 古屋美登里訳 イーディス・パールマン 1936年生まれ この中の「連れ合い」という作品の中に美味しそうなジュースがでてきました。 その前の週、ミツコに偶然会いました。彼女は果物屋でアボカドを買っていた…

『ある島の可能性』 ミシェル・ウエルベック

2005年の作品。作者は1958年生まれ。ということは彼も「ぞろ目会」の会員だ。マリオ=バルガス・リョサもそうだ。これからの会の中核はウエルベックの世代だろう。体に故障が起きれば気が滅入るかもしれないが気力旺盛で。 体毛が薄く、虚弱で、血行…

続、『カタコトのうわごと』 多和田葉子

この図書室でわたしが一番嫌いな本は、第二次大戦前に出た〈桃太郎〉の絵本で、桃太郎の頬のほんのり火照った色合いと黒い瞳の輝きにもぞっとするが、その桃太郎が血液の染みひとつ作らずに、西洋人や中国人の顔をしたオニたちを殺して、宝物を略奪している…

『カタコトのうわごと』 多和田葉子

わたしは、〈美しい日本語〉などというものは、〈上手な文章〉とか〈成功した短編小説〉などというものと同じくらい当てにならない観念だと思っている。だから、そういう日本語が一度崩れていく場所というのが、小説を書くためには必要だと思うのだが、わた…

『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ

16の話が入っています。「水泳チーム」が面白かった。 人はたいてい同じくらいの背の人どうしでかたまる。その方が首が楽だから。 というように、ところどころに出てくる、ちょっと〈外す〉ひと言が面白い。それだけではないが。

『シルトの岸辺』 ジュリアン・グラッグ

斜め読みでした。 作中のオルセンナという国が戦争に進んでいく。霧の中を歩いていて何となくそんな雰囲気があるのを感じるが、まさかと思って歩いていたところ、霧が晴れたら、何となくそうではないかと感じていたものに周囲がなっていた、という霧の晴れる…

『「自分の子供が殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』森達也

シンポジウムの際に高校生たちは、「被害者の人権を軽視しましょう」などと発言していない(当たり前だ)。ただし加害者(死刑囚)の人権について、自分たちはもっと考えるべきかもしれないとのニュアンスは確かにあった。そしてこれに対して会場にいた年配…

『詩という仕事について』 J.L.ボルヘス

「2隠喩」より。 さて、われわれはようやく、この講義の二つの主要な、しかも明白な結論に達しました。その第一は、言うまでもなく、数百の、いや数千の隠喩が見いだされるけれども、その一切は少数の単純なパターンに帰着させることができるだろう、という…

『聖なる怠け者の冒険』森見登美彦

京都が舞台。作品の重さの中で場所の占める割合が大きい。京都で過ごしたことがあり、京都の地理や祭りを知っており、過ごした時がその人にとって良い時であったなら−−おそらく筆者はそういう人に当てはまるだろうと推測する−−わくわくしながら、しみじみと…

『太宰治賞2013』筑摩書房 終わり

全作品を読みました。どれも良かった。 選考委員を書き洩れていたので書きます。加藤典洋、荒川洋治、小川洋子、三浦しをん。選評は下記で読めます。 http://www.chikumashobo.co.jp/blog/dazai/「さようなら、オレンジ」の構造について。選評を読んでその構…

『太宰治賞2013』筑摩書房 その2

「さようなら、オレンジ」の構造についての対照的な評価も面白かった。以下は、三浦しをんの選評にもあるが、「以下、本作の構造についてのネタバレなのでご注意ください」ということになるのだろうか。 小川洋子 ここでどうしても触れておかなければならな…

『太宰治賞2013』筑摩書房 その1

収録作品は 「さようなら、オレンジ」KSイワキ、「背中に乗りな」晴名泉、「人生のはじまり、退屈な日々」佐々木基成、「矩形の青」水槻真希子 『さようなら、オレンジ』の予約待ちの行列が長いので、こちらを借りた。選評から読み始めて、次に「さような…

『小説のように』アリス・マンロー

「顔」より。 この場所であることがおきた。人生においては、何かが起きた場所がいくつか、あるいはもしかしたらたったひとつあり、そしてその他いろいろな場所がある。 もちろん、もしナンシーを見つけていたとしても−−たとえばトロントの地下鉄で−−どちら…

「ニュートン別冊 みるみる理解できる天気と気象」

散歩で空を眺めることも多いから借りてみた。台風の発生のメカニズムの説明があった。その1 上昇気流が”台風の種”をつくる その2 ”種”のまわりに次々と新たな積乱雲がつくられる その3 うずによる遠心力で眼ができるこんなふうにできるらしい。そこに「積…

『ももたろう』 赤座憲久・文 小沢良吉・絵

ひ孫一と図書館の「おはなし会」に参加した。本当は孫一が一緒に参加すればよいのだが行きたがらない。帰りに「桃太郎」の絵本を借りてきた。ひ孫一に「どんぶりこ」という文字を見せたかった。最初のところでびっくりした。川を流れてきたのは、たらいに入…

『【新釈】走れメロス』 森見登美彦

仲間に、この作家を教えて貰ったので読んでみた。入っている五篇を好みの順に書きます。百物語 一行空き 山月記 一行空き 桜の森の満開の下 走れメロス 藪の中です。 一行空きとあるのは、その間の好みの度合いに開きがあるという意味です。「藪の中」はどこ…

『おどるでく』室井光広

多和田葉子が『現代文学の読み方・書かれ方 』の中で、注目しているだったか、気になるだったか、現在そいう作家は誰かいるかと尋ねられて室井光広を挙げたので読んでみた。 著者のあとがきです。 あとがき (略) 物語小説の王道から逸脱した語りにともすれ…

『文学2005』日本文藝家協会=編

時は熟す−−「文学2005」解説−−中沢けい馬小屋の乙女 阿部和重 空を蹴る 角田光代 海 小川洋子 片乳 小野正嗣 トクヤンクン 小林紀晴 夕餉 山田詠美 そらいろのクレヨン 蓮見圭一 人生の広場 池澤夏樹 寝室 江國香織 あなめあなめ 大庭みな子 星辰 河野多…

『二十世紀の小説』ジャン=イヴ・タディエ

延長した貸出期限が8月4日なのだが、まだ第一章を読んでいる。読み終えられないと思う。読んだ範囲でどうやら理解できたような気がする部分で、これは、と思ったところです。 しかしいずれにせよ、作者の立場に立つならば、《私》はということには、いくつ…

読書傾向

評価ということではなく単純な興味としてその人がどんな本を読んでいるかには関心があります。こんなページを見つけました。青木淳悟を興味深く読みました。単純な興味とは書きましたが、同じ本が好きな人にはどうしても親近感を感じてしまいます。 『作家の…

『終わりの感覚』 ジュリアン・バーンズ

後ろ表紙の文句の出だし、大きな活字で印刷されてるのは 記憶がゆれる。「私」がゆらぐ。 主人公が金曜日から恋人の家(家族と暮らしている)に泊まりに行って日曜日に帰る場面。 さよならの挨拶をしに下りていくと、フォード氏は私のスーツケースを取り上げ…